投資教育の前に必要な「生活設計教育」

金融庁に「家計の安定的な資産形成に関する有識者会議」が設置され、その第1回の事務局説明資料が公表されました。
その中で「資産形成を促すために大切な要素」として、①制度の整備、②実践的な投資教育、③金融機関の顧客本位の業務運営の3つがあげられています。

■資産形成は何のために必要なのか?

日本では個人の金融資産が現金や預貯金、保険等の元本確保型商品に偏っていることが指摘され続けています。
2016年12月22日に公表された日本銀行の資金循環勘定によると、日本の家計金融資産は1,752兆円あり、その52.3%が現金・預金。国全体として「貯蓄から投資へ」という流れを進めている中においても10年前と比べてほとんど変化がありません。一緒に比較されている米国とユーロエリアの現金・預金の比率を見ると、米国が13.9%で、ユーロエリアは34.6%。日本人の貯蓄重視傾向の根拠としてもよく利用される数字です。

こうした現状を背景に、「貯蓄に偏っている家計の金融資産をもっと投資商品に振り分け、資産形成を進めよう」という流れが進められているわけですが、そもそも資産形成は何のために必要なのでしょうか?

家を買うため?
子どもの教育資金を用意するため?
退職後の老後資金を貯めるため?

もちろん、目的は人によって違いますし、何か1つだけということもないでしょう。
いずれにしても、こうした人生の中で遭遇する様々なイベントには、多かれ少なかれお金がかかることと、そのためのお金はあらかじめ用意しておくことが望ましい、という考えが(正しいかどうかは別として)一般的だといえそうです。

■資産形成の手段=投資商品の利用なのか?

「自分にとって将来必要となる資金を準備する」=「資産形成」であるとして、次に考えるのはそのためにどういう手段を選ぶのかという話。

これにも様々な考え方がありますが、基本的には「収入を増やす」か「支出を減らす」か「手持ちの資産からの運用収益を増やす」という3つがあげられます。

今回の話は、この中で「資産からの運用収益を増やす=投資商品を利用する」という流れから出ているものです。そして、そのための制度は着々と広がっているわけですが、一方で制度の普及が、必ずしも投資商品の利用に繋がっていないという事実があります。

代表的な制度として、確定拠出年金やNISAの実態を見てみましょう。

確定拠出年金制度が日本に導入されたのは2001年ですから、今から15年前。
2016年3月末の加入者数は企業型で約550万人に増加しているものの、約3,600万人の厚生年金被保険者数からすると、15%強にとどまっています。しかも、企業年金連合会の公表資料によると、選択されている運用商品は、預貯金(35.6%)と保険(18.8%)といった元本確保型が全体の54.4%を占めており、制度の普及=投資商品の普及とはなっておりません。

ちなみに、2016年3月末時点の個人型の加入者は25.8万人で、選択商品は預貯金(38.9%)と保険(26.8%)で65.7%。企業型よりも元本確保型商品の比率が高くなっています。

もう一つのNISA口座に関しても、似たような傾向があります。こちらは「元本確保型商品」を選ぶことはできませんが、口座を開設しても何も商品を利用していない「非稼働口座」が全体の53.5%に及んでいるのです。(金融庁の利用状況調査より)

2017年1月から個人型の加入対象者が拡大されますが、いずれにしても、制度の普及だけでは投資商品の利用が伸びるわけではないと言えそうです。

これには、制度そのものが知られていないことや、必要な知識が不足しているため利用を躊躇しているというように、「投資教育の不足」が背景の1つとして上げられますが、一方で「そもそも資産形成の手段として本当に投資商品の利用が必要なの?」という疑問があるのかもしれません。

もっともらしい理由を重ねて、いつの間にか投資に誘導されている心地悪さ、でも言うのでしょうか。

■必要なのは「生活設計教育」

先日、ふと見かけたネット上の記事をツイッターでご紹介したところ、複数の方から共感を得るという出来事がありました。

かいつまんで言うと、イギリス人は日本人ほど老後のための資産形成をしていない、というお話で、

「イギリス人は今日を生き、日本人はリタイア後を思いあぐねる」

という言葉が紹介されていました。45歳以上で預金額が9,000ポンド(=約130万円)未満の割合が全体の40%強なのだそうです。

考えてみると、日本で普及を進めている「NISA制度」のお手本は、イギリスの「ISA制度」です。日本のお手本となる資産形成手段が浸透しているイギリス人は、さぞかし多くの資産を持っているのだろうという思いこみに対して、そうではない一面が見えたところに驚きがありました。

長くなりましたが、ここで言いたいのは「投資は必要ない」ということではありません。
私自身、投資の必要性は強く感じていますし、そのための制度も多くの人が正しく知って、有効に活用するべきだと思っています。

一方で、「将来のために資産形成が必要」「そのためには投資商品の利用が不可欠」という一連の流れに、なんだか居心地の悪さを感じている人も少なくないのではないかな、とも感じています。
ですから、制度だけを準備しても、なかなかその流れに身を任せようとしないのではないでしょうか。

自分にとって何が大切で、そのために必要な要素が何なのかは、やはり自分主体に考えるべきことではないでしょうか。

そのために必要なのは、「投資教育」ではなく、「人生教育」というか、「生活設計教育」とでも言われるべきものかもしれませんね。

Follow me!

  • Facebook
  • twitter
  • Hatena