遺族年金における夫と妻の差

公的年金には、老後の生活を支える老齢年金のほか、所定の障害状態となった際に受け取れる障害年金と、被保険者が死亡した際に遺された家族が受け取れる遺族年金があります。

このうち遺族年金については、「夫が死亡した際の妻」に比べ「妻が死亡した際の夫」は受給要件が厳しいため、法の下の平等を定めた憲法に違反するのではないかという話題が、以前から言われてきました。

その中で注目すべき判決が、3月21日に最高裁判所で下されました。
先に結論を書くと、「男女の賃金格差などを踏まえれば、(妻に手厚い)規定に合理性がある」と指摘され、「規定は合憲」とする判断が示されたのです。

■遺族年金とは?

そもそも遺族年金とは、公的年金の被保険者が死亡した場合に、一定範囲の親族が受給できる年金で、残された家族の生活保障を目的とした、いわば生命保険や共済のようなものです。

ひと口に遺族年金といっても、国民年金からの給付には、遺族基礎年金、寡婦年金、死亡一時金があり、厚生年金からの給付には、遺族厚生年金、中高齢寡婦加算、経過的寡婦加算があるため、自分の場合はどの年金が、いつから、いくらもらえるのかがわかりにくくなっています。

ここでは、ベースとなる遺族基礎年金と遺族厚生年金だけをとりあげます。

まず、国民年金から支給される「遺族基礎年金」からみましょう。
遺族基礎年金を受給できる遺族は、死亡した人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」となっています。年金法上「子」とは、18歳に達した後の最初の3月31日までの未婚の子を指すので、ここでは単純に「高校を卒業するまでの子」と考えてください。ちなみに、1級、2級の障害のある子の場合は20歳になるまでが対象です。

この遺族基礎年金は、昭和61年に年金の大改正があるまでは「母子年金」と呼ばれており、遺族基礎年金と名称が変わったあともしばらくは「母と子」だけしか受けることができなかったのですが、昨今の社会情勢を反映し、平成26年4月以降は「父と子」も受け取れるようになりました。
つまり、高校を卒業するまでの子がいる家庭では、夫が亡くなった時の妻と、妻が亡くなった時の夫に、差は無いということです。

一方の遺族厚生年金を受給できる遺族は、死亡した人に生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母ですから、遺族基礎年金に比べると受け取れる人の範囲は広くなります。

ただし、夫、父母、祖父母が受給できるのは、本人の死亡当時に55歳以上の場合に限られ、実際に受給できるのは60歳に達した時からとなります。夫婦間で見ると、夫が亡くなった時の妻には年齢制限がないのに、妻が亡くなった時の夫には年齢制限がある、つまり、差があるというわけです。

■妻が亡くなった場合の給付

例えば、「妻が亡くなって、夫と18歳年度末までの子が遺族となった」場合を考えてみましょう。

この場合、まず夫は遺族基礎年金を受給できます。また、夫が55歳以上であれば、本来は60歳からしか受け取れないはずの遺族厚生年金も、遺族基礎年金と併せて夫に支給されます。

一方で、夫が55歳未満であれば、夫は遺族基礎年金だけの受給資格を持ち、遺族厚生年金は受給できません。ただ、18歳までの子がいますので、その子が遺族厚生年金を受給することになります。結果的に、世帯としては遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給することになっていますが、遺族基礎年金は夫に、遺族厚生年金は子に対して支払われる点にご注意ください。
なお、この場合、子がいない(または18歳年度末を超えている)と遺族厚生年金はもらえず、冒頭にご紹介した最高裁判所が判決を出した問題は、まさにこの点が争われていたのです。

■性別の差を認めた判断

実際の事件は、遺族厚生年金ではなく遺族補償年金の話です。1998年に、当時51歳だった妻が自殺し、労災の認定を受けたことで、当時51歳だった男性が遺族補償年金の支給を申請したところ、妻の死亡時点で55歳未満だったことを理由に支給されなかったことを不服として訴えを起こしました。

この問題では、一審の大阪地裁判決は「現在の一般的な家庭のモデルは共働き世帯で、配偶者の性別による差別的な扱いには合理性がない」として不支給の決定を取り消しているのですが、その後、二審の大阪高裁では、男女間の賃金格差を理由に「夫を亡くした妻の方が、独力で生計を維持できなくなる可能性が高い」と指摘し、不合理な差別ではないという判断を下しています。

そして今回の最高裁判所は、判決理由の中で、男女間の労働人口の違いや平均賃金の格差、雇用形態の違いを挙げ、「妻の置かれている社会的状況に鑑みれば、妻に年齢の受給要件を定めない規定は合理性を欠くものではない」と二審同様の判断を下したわけです。

一方(=遺族基礎年金)では、男女差を無くす方向に動きながら、他方(=遺族厚生年金)では差があってもよいとされた結果には、納得できない考えもあるかと思いますし、今後も議論は続くかもしれません。ただ、現状の制度の取り扱いを認識したうえで、世帯の状況に合わせた生命保険や共済の準備を考える必要があるという点は忘れないようにしましょう。

そしてもう一つ。たとえ制度上受給対象になっていても、受給権者が請求しなければ遺族年金は支給されません。私たちを守る制度の仕組みを知り、イザという時に請求漏れがないようにするとともに、自分の周りでご家族の亡くなった方がいらっしゃる場合、「年金事務所に行って確認した?」という言葉をお掛けいただきたいと思う次第です。

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